アメトーークの読書芸人の回で、光浦さんがオススメ本として紹介していた『パンク侍、斬られて候』を読み終えたので、そのあらすじと感想を紹介します。
この小説を一言で表すと、いい意味で「いや、意味わからん」と言った感じです。
これを機に、町田ワールドにどっぷりハマりそうになります。
『パンク侍、斬られて候』のあらすじ
時代設定は、江戸時代。
牢人の掛十之進は、黒和藩に就職するために「腹ふり党という宗教団体が、この藩を滅ぼそうとしている」とウソの情報を発言して、黒和藩へ就職する。
しかし、腹ふり党は数年前に廃れており、ウソの情報を流したとして死刑を言い渡された掛は、『腹ふり党をでっち上げる』と言うとんでもない作戦を思いつく。
キャラの個性が特に際立っており、この手のギャグ要素の強い小説が好きな人は、どっぷりハマってしまう小説になるだろう。
『パンク侍、斬られて候』の感想
すごく好みが分かれそうな小説ですが、ボクの場合は一気に読み進めてしまうぐらいハマってしまいました。
最初の数ページを読んでいくと「なんだ、ギャグ小説か」と言う印象を受けますが、作者の町田さんの社会に対する考え・価値観を垣間見れたり、いきなり残虐なシーンに突入したりと一冊で三冊分を味わえる感覚がしました。
さて、物語は1ページからショッキングな展開で始まります。
主人公の掛が茶店で休憩をしていた時に、腰の弱い父親と盲目の娘を見かけてシーンからです。
親子の前で立ち止まった牢人は、にた。と笑った。にこ。ならよい。しかし彼は、にた、と笑ったのです。いったいぜんたいどうしたのだろうか、と巡礼の父娘が思う間もない、牢人は抜く手も見せずに大刀を振りかさずと、ずば。父親の右肩から左脇にかけて袈裟懸けにぎゃん。
突然、残虐なシーンから始まって読者はド肝を抜かれますが、その後、近くにいた黒和藩の武士に父親を斬った罪を問われた時の掛の弁解が、先ほどのシーンとのギャップがあって何だか笑えました。
ここからはギャグ要素が強くなりますが、掛が黒和藩に召し抱えられて腹ふり党のウソの情報を流した罪に問われた辺りから、話の展開はガラッと変わります。
町田康の社会風刺
本作「パンク侍、斬られて候」の見どころは、筆者の独特な言葉遣いによる笑える話だけでなく、筆者の町田さんの社会風刺にお注目すべきです。
みなが権謀算術の限りをつくし、くねくね身体を曲げたり、あえてラテン語で喋ってみたり、思ったことの逆を言ってみたり、観測気球を打ち上げたりしている。そこへ儂は真っ直ぐ最短距離を歩いていって、はきはきと日本語で自らの主張を述べる。するとどうでしょう。そうしてほかの奴がいろいろ曲げたりしていることはなにも意味はなく、結局、事態は儂の希望どおりに推移していくのだよ。
『パンク侍、斬られて候』p.59
上記の事を今風の言葉に変えると、「色々考えた挙句、皆は英語を覚えたりお世辞を言ったりしているけど、結局は、物事の本質を見極めて真っ直ぐ進むのが一番なんだよ」と言った感じでしょうか?
このような社会風刺をコミカルに書いているので、あまり偉そうではなく、むしろニヤッとしてい読んでしまうのも、町田節ならではと言った所でしょう。
ちなみに、ボクが一番心に残っているのは以下の文章です。
僕は納得いかないうちは仕事をしません。などと最近の餓鬼はほざくが、そんな70年代フォークソングみたいな心のやさしみを求めて会社に入ってきてもだめだ。なぜならビジネスは戦争だからね。君がいつまでもそんなことをいっていると会社は潰れ、君は職を失う。それでも、納得いきません、って言って怒るのかね。
「パンク侍、斬られて候」p.77
ボク自身は「納得できない仕事はしません」とか言うタイプの人間ではないですが、なぜか最も印象に残った一文になりました。
本書は様々な角度から物語が展開していき、中には途中から話に付いていけなくなる人もいるようですが、最後は「ああ、そういうことか」とスッキリと終わることができました。
これを機に、町田小説にハマりそうです。
てか、すでにもう1冊買ってしまいました。